聖女のララバイ

 

 





「……で、覚悟はしたわけだけど、実際どーすればいいの?」


決めたからにはサッサとやるわよ、と言わんばかりに尋ねてくる目の前の少女。

つい先ほど自分の申し出を受け入れてくれた聖女様は腰に手をあて、自分の返事を待っていた。
生まれて100年(半分くらい寝てたけど)やっと見つけたと思った。永遠を分かち合うパートナー。


彼女の刻を止めてしまうのを躊躇った。というか出来なかった。
でも彼女は

「あんたみたいな危なっかしい奴ほっとけないわよ」

と半分怒りながら、半分笑いながら言った。




……………あんなに嫌がってたのになぁ。俺が諦めた途端、許してくれた。変なの



ここらへんは口に出すと前言撤回されそうなので言わない。
やっぱりさっきの同族と戦いになった時になんかあったのか(聖女は狙われやすいからなぁ)


「えーと…確か血の交換を持ってして契りを交す、とかなんとかだった…」
「?、曖昧ねー…えーと、つまり私があんたの血を吸えばいい、の?」
「あー多分そんな感じ」


前に先輩吸血鬼(佐野ってゆー奴)から聞いた話を思い出す。


「でもさ、どうやって吸えばいいの?あたり前だけど牙ないわよ私」
「あー……んー?」


吸う事はあっても吸われた事はない。(当然か)さて、どうしものか………あ。


「口とかなら噛んだら切れて、血も出ないかな?」
「………………は?」
「あれ、駄目か?」
我ながらナイスアイディアだと思ったのに。
「それはつまり…………キスしろって事?」
「え?あ、そーか。うん」
「さらっと言うなーーーっっ!!!」


夜中に叫ぶと皆起きるぞと心の中で思ったが、コレも言わないでおく。
うーん……んじゃ、どーしたもんか。
一人で唸りながら考えていると、マント代わりの黒い首の布を
遠慮がちに、でもしっかりとひっぱられる。
一歩間違えば、俺は息ができなくなっていたけれど。


「…………早く目瞑りなさいよ」
「へ?なんでだ?」
「っお前が言ったんだろーがぁっっ!!あんたの事だから、自分で自分の指だか腕だかちょっと切って
「飲めばいい」とか言いだすに決まってるしっ!なら自分でちゃんとやるわよ。ほら早くっ!!」


言って頭をわし掴みにされる。顔を真っ赤にしながら、それでも目は反らさずに、真っ直ぐと。


あぁ、やっぱ敵わないんだろうなぁ


今夜は思った事をちっとも口に出せない。
それでもいいか、と言われたとおり目を瞑る。

あんなに意気込んでいたのに、いざやるとなると、やはり羞恥心がでてきたらしく
俺は目を閉じたまま、1分くらい待った。
頭を掴んでいた手が両頬に移動する。
一呼吸するような仕草を感じてすぐに

唇に暖かさを感じ、刹那チリリと走った痛み。でもそれはすぐに――――――



確かに、言えないかもなぁ……こんな感覚。


自分が血を吸っている間、痛くはないのかと思って彼女に尋ねると、
顔を真っ赤にして「教えない!!」と叫ばれた事を思い出す。
痛いのは最初だけだった。
体を巡る血の流れをダイレクトに感じているような、そんな気分。


――――――悪くないな、なんて


感情のまま、細い体を抱き締める。



ごめん。
君の人生を変えてしまった。
後悔はない、って事はないけど。

『眠り』が二人を分かつ、その時、もしも俺が先だったなら、
キミの子守唄を聞きながら眠りたい。

二人、永遠に近い時間を。
共に、
生きるための約束を。