悪魔が見る夢


私達がいる場所は(自分で言うのもなんだけど)
不思議な空間で、これは私の創った空間じゃないから
どういった仕掛けで出来ているのかわからない。

じゃあ、誰が創ったのかというと、それは私の先輩
(この場合早くに生まれた、という意味)であり、私が生まれてから
ずっと一緒にいた彼女、鈴子だった。

生まれたてで、何も分からない私を偶然見つけてくれて、
人間の命の取り方や、夢への入り方、空間の創り方なんか
本当に色々教えてくれた。

空間を混ぜて、先ほどまで見ていた映像を消す。
人間は見ていて楽しいけれど、でも途中つまらなくなる。
さっきまで少しだけ人間で遊んでいたけれど、やっぱり飽きてしまった。


「あ〜ぁ早く帰って来ないかなぁ鈴子ちゃん・・・」


人間の性と命が私達の糧になる。
魂は死神の取り分だから取れないけど(色々あるのだ悪魔にも)
鈴子は、今少しだけ好みの人間を見つけたらしく、糧を吸いにいってしまった。
結果、私は今一人なわけだが。


「はぁ〜・・・・暇・・・・」


自分は先ほどいただいてきた。
だから待つしかないのだが。


「あらあら、あいちゃん。そんなにお暇?」


急に聞こえた声。
この空間の支配者。
少し赤みの混じる綺麗な茶の髪を揺らしながら、とっ、と自分の下に着地した。


「ただいまですわ、あいちゃん。おとなしくしてまして?」
「ん〜暇すぎて飽きちゃった」
「あらあら」

ころころと笑いながら、私の額に唇を寄せる。
瞼に、鼻の頭に、頬に、耳元に、順々に降りていく。
私はいつもそこで、とっても気持ちよくなってしまうので、
彼女の膝で眠りにつく。






「気持ちよさそう、あいちゃん」


告げる言葉には確かな愛情。
ただ、きっとこの気持ちは悪魔たる自分の闇の気持ち。
青く透き通る髪を梳く。
あぁ、なんて幸せな時間。


「本当はこの空間にずっと閉じ込めておきたいんですのよ?
 でも、それをすれば、壊れてしまいそうな気がして・・・」

それでも。
その薄く開かれ唇を指でなぞる。


「あいちゃんは、私だけ、見てくだされば良いんですわ」


抱きしめて眠る。
知らないでしょう?

あなたの為に創ったこの空間。
この閉ざされた場所で見る夢が、どれほどに甘美か。




「世界で一番純粋に望む夢を見られるのは、悪魔ですのよ」




その呟きは、誰に聞かせるものだったのだろうか。