なんて言うか、隣にいるのが当たり前すぎて
だから、これからもずっと、一緒にいるんだと
その時、思った。






部活の帰りだった。
一緒に帰れるのは実は希だったから表情には出なかったけど凄く嬉しかった。
俺はあんまり喋るような話題がなくて、いつもお前が話すのに相槌をうつくらいだったけど、
そんなの(多分だけど)気にせずに楽しそうに話す姿に俺も何だか楽しくなって。

「ちょっと植木!聞いてるの?」
「聞いてるぞ」

そう。ちゃんと聞いてるんだ。
みっちゃんと、たまこと(俺はあんまり知らないけど)昼休みにグランドで遊んだんだろ?
それから数学の宿題が難しそうだ、とか。確かに俺にも難しいな。

沈む夕陽に少しだけ目が痛くて、歩む足をゆっくりにした。
それに気付かずに進む君と出来た、3歩分の距離。
夕陽を受けて、オレンジに染まった髪とシャツ。
向けられている背中は正面の光のせいで暗いけれど、まるで体の周りが輝いているように見えて。




思ったんだ。

あと俺たちは何回くらい、この道を一緒に歩けるんだろう、て。
どれくらい、一緒にいられるんだろう、て。
そんなの考えても仕方のない事で、でも一度考え出すときりがない。



知らないだろ?

この『幸せ』だと感じる空気に、お前の存在は必要不可欠になってるなんて事。



歩幅を広げ、容易く縮まった、先を行く背中との距離。すぐ後ろに立つ。

「植木ー何やっ…て…」

振り返ってあまりの近さに少し驚いたみたいだったけど、本当に少しだった。

「………どうしたの?」

お互いの息が感じられるほど近く。真っ直ぐに見つめてくる瞳の中には、知りすぎている自分の顔。
酷く情けない顔に見えて、目を閉じる。

「なんでもない…」

告げた言葉は、そっけなくて。でも離れていかない存在が嬉しくて。
こんなにまで近くにいるのに、ギリギリ触れ合わない距離。

俺は目を瞑り、空気でもって相手の存在を感じる。
俺はどんな大勢の中でも、森の事を見つけられるだろう。

"どうしたら ずっと一緒にいられるだろうな"

そんな事を考え、思いついた一つの答え。
瞼を開き、同じように目を瞑っていたらしい森を視界に捕らえる。

照らされた頬は赤く、睫毛の影ができる。
"触れたい"と思う衝動のまま、腕を伸ばし、頬に触れようとする。

が、寸でで止まる。

「森」

呼びかけは、やはりそっけなく、しかし素直に目を開く。
どこか夢現な彼女は、しかし、ゆっくりと


笑った。



結局その後は何事もなく、ただお互いの家路についた。
一歩一歩、家に近づく。
アスファルトの道を踏みしめながら、空を見上げる。




君と一緒にいられる方法。

俺は男で、君は女だから、出来る事。
恋じゃないかも知れない。
愛じゃないかも知れない。
それでも、一緒にいたいから。



いつか聞いてほしい言葉を胸に






2006/08/13