オレンジに染まる教室。部屋の半分は、すでに闇になっている。
こういうのを、黄昏時と、言うのだろう。




偶然、だった。



不思議と疑問はなかった。
とゆーか疑問がない事が疑問だと言うべきかもしれない。

まるで幼子が母親にするように、植木が私のお腹に顔を埋めている。

等間隔に並ぶ机と椅子。出来る影は黒く、暗い。

綺麗だな、とこっそりと思っていた、日の光をいっぱい浴びた葉のような
緑の髪が、今はオレンジに輝いている。



「森の髪は綺麗だな」

私とは逆に、はっきりと、そう告げて笑った少年。
きっと私の髪も今はこの教室のようにオレンジと黒のコントラストになっているのだろう。




「……植木……」


顔は見えないから、頭に呟くように。
椅子に座り私の腰を抱く植木の腕が、少し、強くなる。



どうしたの、とか

大丈夫、とか

じゃなきゃ

しっかりしなさいよ、とか………………



多分言うべき事が本当は、たくさんあったのだろう。
でも、私はそのどれもしない。



植木は、私に弱ってる所なんて見せない。
何かあっても

「大丈夫だ、心配するな」

って、笑う。

笑って、嘘をつく。
だから、私は胸の痛みを隠して、


――――――――――――――――――――騙されていた。







なのに。




見てしまった。
気付いてしまった。


本当に一瞬にも満たない、刹那とも言うべき瞬間、泣きそうな顔になっているのを。




理由は、聞かなかった。





「………しばらく、このままで…」





それだけ呟いて、それきり、このまま。
どれくらいの時間がたったかなんて、どうでもよかった。




ただ、側にいたかった。
離れたくない、と思った。


でも、それ以上に私は
私に縋りついてくれた事に、どうしようもないほどに




あぁ………………


――――――――――――――――――――――――嬉しさを感じてしまった。





髪を撫でるように触れる。

また強くなった腕に少しだけ息が詰まったけれど、たいした問題じゃない。


誰にも渡さない。
この場所は、私だけのものだ。




少しだけ体を倒して頭を抱く。
二人、何も言わず教室にはゆっくりと、闇が広がる。




黄昏時は 『誰そ彼時』

お互いの顔は見えず。


黄昏時は 『逢間ヶ時』

いつのまにか、教室ごと二人、呑まれていった。