この胸の動悸が何によるものなのか、なんて
そんな事、本当はどうでもよかったかもしれない




「お疲れさまでしたー!!」

部員全員での顧問への終礼を終え、本日の部活は終了した。
夏に近付いてきたせいか、6時前だというのに、空はまだ明るい部分が多くなってきていた。

今日はバレー部には辛いグラウンドの練習だった。
運動部の数の都合やそれぞれのスポーツの形式上、
一つしかない体育館の使用は曜日によってふりわけられている。

片付けは既に終わっているので(片付けが終わってから顧問への挨拶があるのだが)あとはもう帰るだけだ。
部活参加者は体操着での下校が許されている。

部活の後は皆疲れているし、何より学校側が安全を考え、学校で溜らないようにする為の規則でもあった。


例外に漏れず、バレー部所属・二年森あいもジャージでの下校をしている。
鞄と部活用のショルダーバックを背負い部活仲間と一緒に校門へ向かう。
学校を出ると友人達とは別れて一人での帰り道になる。

いつもと同じ帰り道だ。多分、中学に通う間変わらない道。
いつか見飽きてきたこの道を懐かしく思う事もあるのだろうか?
柄にもなく、そして意味もなく急にしんみりした気分になる。
だが、そんな気持を吹き飛ばすのに十分な存在を見つける。



あいつ、何やってんのよ………



それは、火野国中の体操着の緑の髪の少年だった。
ある種、有名人でる少年は自分もよく知っている。
むしろ同級生達が知らないような約一年前の夏の出来事は
まだ十年と少ししか生きていない自分の人生の中でも群を抜いて光る過去だ。
きっとこれからもそうだろうけど。

「ちょっと植木、あんた何やってんのよ」
「?、おぉ森じゃん。どうしたんだ?」

質問に質問で応えるのはどうなんだ、とは思うが言わない。
こーゆーやりとりは、この少年――――植木耕助との会話では
当たり前すぎて注意する気も今では失せた。

「買い食いは校則違反でしょうが、バレたらケッパンじゃない」

ケッパンと言うのは、プラスチックやら竹で尻を叩かれる罰の名だ。
体罰厳禁になってきている教育界だが、我が校から体罰で訴えられた教師はいない。
生徒と教師の間に信頼関係があったし、叩かれてもそこに愛情を感じられるからだろう。
いや、まぁめちゃくちゃ痛いんですけどね…………


って、この話はおいといて。


「大丈夫だって。ケッパンは嫌だけど」

言いながら(買ったのだろう)紙で出来た簡単な袋に入った唐揚げをパクつく。
因みに一袋8個入り200円。おばちゃんと仲良くなればオマケ付けてくれたりする。

学生に優しいですね、なーんて。
てゆーか………

「部活帰りのお腹が減りまくってるバレー部員の前で唐揚げパクつくなんて、いい根性じゃない」
「ん?おひゃへひょくいひゃい「食べてから喋れ」

得意技になったチョップをおみまいする。暫くしてやっと飲み込んだらしい植木が話しだした。

「お前も腹減ってんだたら買って食えばいいじゃん。おっんじゃ河川敷にでも行くか」
「あんた話聞いてた?」
「だから減ってんだろ?腹」

食べるの待っててやるから早く何か買え、という様子の植木。あいっかわらず……

「自己中」

呟いた言葉はむしろ相手に聞かせる為の文句だった。





草の上に腰を下ろし、植木は唐揚げを、自分は先程買ったチョコクレープを
(その店にはクレープはこの一種類しかないが。因みにこちらはお値段100円)食べだす。
何だかんだで自分もお腹が減っている。

「森はしたことないのか?」
「買い食い?したことないわね」

そう。これが初めて。最初の一回目。

「その口ぶりだと何回かしてるみたいねアンタ。バレた事ないの?」
「いちをなーあっ毎回じゃないぞ、そんな金ないしな」

つまりは常習犯なわけか。意外なような納得したような。
時々喋りながらお互い買ったものを食べる。
食べているうちにチョコのしつこさが喉に残ってきたので、
持参しているペットボトルに入れた家のお茶を飲む。

「飲む?」
「ん、ほしい」

部活後なので3分の1ぐらいになっていたが、二人で飲むなら十分な量だ。
植木はわざわざ気にしてくれているのかペットボトルの口の部分には触れないように
口を開けて流し込むように飲んだ。

「別に気にしないわよ、私。いちいち間接キスとか騒がないし」
「なんとなく。嫌に感じる奴もいるかもしれないし。男友達でもこうやって飲むし。」

わかりずらい礼儀だ。

「なぁ、それ少しくれ。唐揚げやるから」
「ん」

お互い躊躇いとかはあまりない。
手が触れ合ってドキドキする事もなく、間接キスだって何回したか、なんかわからないだろう。
先にクレープを食べさせてやる。次に唐揚げを貰おうと、植木の袋に手を伸ばした瞬間。

「お前らぁっ何してるっ」

いかにもな体育教師の声は油断しきっていた二人にとって雷のようだった。

「逃げるぞっ」

言うなり私の手を引き駆け出す植木。私の分の手荷物まで抜かりなく掴んで、走った。



あぁ、初めての買い食いでイキナリ見つかるなんて、なんてツイてないのだろう。
走りながら思った。




「………撒いたか?」

呼吸が乱れまくりな私と違い、植木は多少早くなった程度だった。
さすが、陸上部。改めて実感。
……………や、違う。違うわよ、私。

「うわぁ……明日呼び出しとか食らわないかしら……」

やたらと現実的な感想を述べる自分。
そんな自分に、

「なんだ、んな事考えてたのか?大丈夫だって」

と、植木は持って走ってくれた私のカバンを差し出した。

「んな事って!やっぱり少し怖いじゃない!」
「そーか?案外平気だぞ?」

ほら、と促すから、受け取ったカバンは、なんだかいつもより重く感じた。
土手を歩きながら(寄り道だから、いつもは通らないけど)二人会話。

「う〜……大丈夫かなぁ……」
「大丈夫だって。それにしても、なんかドキドキんしたな〜」
「私だってよ!はぁ……もう買い食いしない!」
「いや、違くて」
「……?じゃあ何よ?」

「森の手を掴んで逃げてる時さ、俺すっごくドキドキしたぞ。
少しひんやりして、凄く気持ちよかったけど、体が熱かったんだよ。」


……………そーゆうのって、なんだっけ。
壊れかけのつり橋を渡っている男女が恋をしやすいんだったか。

         "つり橋の恋"

「あーそう、それ」
「は?何がだ?」


不思議そうに尋ねてくる少年の顔を見つめる。
固めの髪質の緑の髪が、夕日に透けてキラキラ輝いて見えて。
出来た身長差の分、少し見上げるような視線で、改めて確認。


……………うわぁ、ちゃっかりしちゃってるじゃない、私も


嫌な気分ではないが、気恥ずかしくなってしまった私は、だから

         「秘密よ」

と、だけ伝えた。



いつもは一人の帰り道で
今日は二人で違う道に、寄り道までして



楽しくて楽しい、少し違った帰り道がとても気に入ったのは、
このドキドキのおかげだと思うから。
コレが恋だとは言い切れないけど
……………まぁ、私達ならこんなもんか、なんて思った。












意味の分からない文章になってしまった・・・・
最初はただ単に買い食いする二人が書きたかっただけなのに
買い食い禁止の校則とかは私の通ってた中学校のやつです。


2006/7/31 2007/09/15修正