夢を見た。内容はあまり覚えていなけど、目を醒ました時、
私はとても悲しくて泣きたくて叫びたくて、そして嬉しかった。






あぁ、ここはどこだろう。



天は暗く、辺りを見渡しても何かを見つける事はできない。
ふと下からの光を受けているのを感じ、自分の足元に目をやる。
そこには自分が立っている所以外一面に敷き詰められたかのように散らばる硝子の欠片があった。

何故自分は今まで気付かなかったのだろう。
それが不思議といえば不思議だった。


この地面(か、どうかは定かではないが)に広がる光の群が全て硝子だとしら、迂濶に歩き回れない。
自分は今裸足で、だからこの場所から動けば足を切ってしまう。
自分から進んで怪我をする奴など、そういないだろう。


そこで、「おや?」と思いあたる。


何だか小さい頃に読んでもらった絵本の内容を忘れてしまったような………
うまく言えないが、感覚的にはそんな感じの心境。



「なんだっけなぁ……?」



腕組をして考えるポーズをとるが思い当たる事はない。
でも何故だろう"忘れちゃいけなかった事"で、そして"覚えていたかった事"なのだと、思った。


その時、広がる硝子が遠くで微かに光ったように見えた。

なんだろうか?

気にはなったが見に行く事は出来ないので、やはりその場で立ち尽くす。
私はここから動けないのだろうか。


かしゃん…!


何の音もしなかった世界に自分が造ったのとは別のそれが響く。


音の聞こえた方を見ると自分と同じぐらいの『少年』が欠片を拾いあげようとしていた。
先程の音は『少年』が硝子をとろうとして落としてしまった音らしい。
よく見ると『少年』も自分と同じ裸足で、しかしその足は歩き回っていたのか、硝子の破片のせいで
とても傷付いていた。


『少年』は、欠片を拾っては光に透かすような動作で何かを確認しているようだった。
既に拾い上げた、たくさんの欠片が『少年』の腕の中にはあった。
遠目にだが硝子が一つずつは小さいとはいえ、その数は二十以上あるだろう。
拾う指先はもちろん、かかえる腕にも相当な切傷ができている。



「ちょ……何やってるのよっ!傷だらけじゃない!血が出てるでしょ!?」



『少年』と目が合う。そして…………



…………何で笑うのよ。そんな傷だらけでボロボロの手足で。



「待って!今そっちに行くから!」



とりあえず止血だろうか。だいぶ血が出ているようだし。
こうなったら足が切れようが構ってられない。あんな奴見ていられない。
足を踏み出そうとした瞬間、空気が走る。



「え?」



どうやら『少年』が自分に向かって何かを叫んだ。らしいのだが、
声は聞こえず空気だけ響いたらしかった。


なんと言われたか分からない。
だが、『少年』の動作や口の動きで「危ないからそこにいろ」と伝えているのは分かった。



「あ、あんた馬鹿でしょ!何が危ないよ!自分はどうなのよ!?足と手見てみなさいよ!」



どうやらこっちの声は聞こえているらしい。
自分の躰を見て、何か動く唇。
なんとなく「大丈夫だ」と言っているように感じた。



「なんなのよ、一体!どーゆー理屈よっふざけんじゃないわよ!」



止まる事なく文句がでそうになるが堪える。今はそんな場面じゃない。
散らばる欠片を大事そうに集める目の前の『少年』を止めなければ。



『少年』が自分を目標に歩いてくる。迷いなく真っ直ぐに。
知らない。こんな子は知らない筈だ。あぁでもその真っ直ぐな足取りを私はどこかで………



「覚えてたかった……人?」



わからない。わからないから声も聞こえない。顔もはっきり見えない。
でも、自分が覚えていない、という事実が『少年』を大切な人だったと裏付ける理由になる。
なんて矛盾した状況だろう。忘れてるから大切な人だなんて馬鹿げてる。



「………あんた、きっと私に怒鳴られてばっかりだったんでしょうね」



目の前に来た『少年』に確信告げる。
また何かを喋る『少年』の言葉はやっぱり聞こえなくて、だから。



「あんたきっと私の言う事なんて聞きゃしなかったんでしょうね」



繰り返し、問う。
目を反らされた気がしたから、恐らく図星だったのだろう。
相手の顔をしっかり認識できないのは辛いものだと知った。



「       、 ―――    」



あーだから聞こえないのよ、こっちは。

傷だらけの腕を差し出す。その中には硝子の欠片。
今までただの硝子だと思っていたのだが、それには様々色がついていた。
そうか、これは―――――



「ステンドグラス……」



砕けてしまった沢山の硝子の絵。一つじゃ完成しやしない。それを拾い集める『少年』



「これは私の大切な記憶の欠片なのね」



そうか、この『少年』は私の記憶を集めてくれていたのか。自分の手足が傷付く事すら気にせずに。
涙が頬を伝う。



「私の記憶があんたを傷付けてる」



馬鹿だ。本当に救えない。



「    。    ―――」



泣きそうになる私に声をかける。



「      」



「聞こえないの、あんたの声。だから」



"やめちゃいなさいよ、こんな覚えてない私の記憶、全部捨てて"




それでも溢れる涙を止められなくて。
あぁ、やっぱり私は 思い出したい、と思ったから。



「ごめん。やっぱり頼むね―――私の記憶、よろしく」



笑う『少年』
うっすらと徐々に輪郭が薄くなる目の前の人に、笑顔で告げる。



「今度会ったら今言った事全部言いなさい。ついでに――――」



"あんた、まだこんな事やってるの。誰かの為に傷付かなくていいのに。あんたは"

"まったく…………"



「私怒ってるの、凄くっ!だから帰ってきたら一発殴らせなさい!おもいっっきり!」



これは、夢だから。
硝子の欠片を拾い集める夢だから。

いつか、ちゃんと
多分、もう一度会えた時に。

自分の存在が薄くなっていくのを感じる。。

さぁ、目覚めの時間だ。
またね、夢の中の『少年』






夢を見た。内容はあまり覚えていなけど、目を醒ました時、
私はとても悲しくて泣きたくて叫びたくて、そして嬉しかった。









2006.07.26 2007.09.15修正