認めなくはないけど自分達はまだ子どもで
中学生なんて想い通りにいかない事の方が当たり前だから









夕日で更に赤く染まって見える赤銅の階段の最上階。
座る二人の体操服の二人。



「森」



呼び掛けた声は聞こえた筈だが、膝を抱えてうずくまっている相手は一瞬肩を震わせて、
しかしそれ以上の反応はなかった。






今日の部活中の事だった。
本日グランド練習だったバレー部を少し気にしながら自分はいつものようにトラックを走っていた。
(正確には森を気にしていたのだが)



「森っしっかり上げろっ!」



グランド全体にひびくようなバレー部顧問の声は外にいた生徒の動きを一瞬止める程だった。
コートの方に目をやれば森が顧問にプレイについての指導をされていた。

そういや………レギュラーになった、て言ってたな


恐らく顧問もそれ故に厳しく指導しているのだろう。
バレーの事はせいぜい授業の体育くらいでの知識しかない。
潤む瞳で顧問の話のひとつひとつにキチンと返事をする少女は、
ぐい、と目元を擦ってそれから良く通る声で「はいっ!」と答えた。



部活終了後、友達と別行動をとった森を追い掛けて
俺はグランドから校舎への階段を昇る。
ふと見ると、日は沈みかけていて俺の顔を少しだけ赤く照らした。
ゆっくりと階段を上る。


森は最上階の上から3段目に腰かけていた。


先程声をかけて3分。きっともう一度声をかけても反応はないだろう。
階段を軋ませながら上から2段目。森の少し後ろに座る。


手摺りを見ると雨で錆びた階段の裏側が見えた。
そろそろ作りなおした方がいい気がした。

鞄から部活後に食おうと思っていたクリームパンを取り出して封をあける。



「食う?クリームパン」



声をかけるが返事はやはりなかった。仕方ないので予定通り自分で食べる。
四階から見降ろすグランドは以外に広かった。
次は空を見上げる。赤から紫へのグラデーションが綺麗で予想通り広かった。


二年にあがって、森とは違うクラスになった。
お互い部活は主格になって(森は副キャプテンだ)
少しずつ、少しずつ時間があわなくなっていって、あの時――――あの夏の日に繋いだ
色々なモノが『思い出』になっていくのを止められなかったのは、俺達のせいじゃないだろう。


変わらないモノは少なくて、一年前よりも伸びた身長は、それでも
空には全然近づかない。



『………あの頃は飛べたんだっけか』



クリームパンを頬張りながら、背中に羽があった時の事を思い出す。
もし今もあったなら、この少女にもあの時感じた風を教えていただろう。

所詮は無いものねだりだけれど。



「空で吹いてる風って俺達が普段感じてるのと少し違うんだ」



唐突に、喋りだす。
丸まっている背中は見ない。代わりに飛んでいく烏を見ていた。



「森にも教えたかった」



それ以上は言わない。何も。



「………だめなの」



聞こえた声の方――――下の階の小さな背中を見る。



「考えれば考えるほど上手くいかなくなって………今まで出来てた事もできなくなって」
「うん」
「先生の言う事、ちゃんと分かるの。だから余計に出来ない自分が悔しくて」
「うん」
「好きだから………好きなのに!苦しくてやめたくなっちゃう時がある」
「うん」



答える返事はそっけないかもしれないけど。森は慰めてほしいわけじゃないだろうから。



「あんたみたいに………好きだからって、それだけじゃ出来ない自分が嫌で」
「うん」
「………っ!いっぱいボールに触ってたい!もっと上手くなりたいっ」
「うん」


そこまで言って急に立ち上がって、森は振り返った。
目が少し腫れたように見えるのは夕日のせいにして。



「見てなさい!絶対っ!!もっと正確にトス上げれるようになってやるから!」
「おー」



俺への約束のように宣言して、森は夕日を見つめる。


知ってる。いつも見ていたから
森がいつもアタッカーの一番打ちやすいトスを上げれるようにがんばってる事。
練習のしすぎで、指の間から血が出たり、突き指をしてテーピングだらけの指を。


ただ、森ががんばってれば、他の部員だってがんばってるハズで。
チームメイトは仲間であると同時にライバルでもあるから。
少しだけ、難しい。


どんな事にでも落ち込む事がある。
俺だってタイムが縮まなかったりしたら凄く悔しい。
そんな気持ちは誰だって持ってしまうものだと思うから。



「早く明日になればいいのにな」



「そうね!………あ〜お腹減った!クリームパンは?」
「お?もう食ったけど」
「っうそ!何よ、くれるんじゃなかったの!?」
「返事しない森が悪いだろ」



勉強して、遊んで、友達と喋って、弁当食べて、部活して、練習いっぱいして。
もっと早く明日が来ればいいのに、と俺は思う。
明日も、明後日もしたい事はたくさんある。
たまに落ち込むけど、俺達は毎日をそう過ごす。



明日も元気でありますように!






2006/0801 2007/09/15修正
部活ってゆーのが懐かしいなぁ、なんて。
世の中って何で回ってるんでしょねー
部活を嫌いになってしまう時ってあるよなぁと