『水も滴る・・・・?』






「ちょっと植木!あんた一体何考えてるのよ!?」





風呂から上がるなり勢いよく耳に飛び込んでくるかのように聞こえた声は、
チームメイトであり想い人である森あいの声だ。


バトル中は各チームに1つずつのホテルがあてがわれている。
「暇だから」という理由でランニングに出かけ、当然のように汗をかいた植木はシャワーを浴びて出てきた所だった。


はて?自分は今この少女の怒りをかうような事を何かしただろうか?
いや、思い当たる限りは何も浮かばない。
ランニングに出かけるまではいたって普通に会話をしていた筈だ。



「その頭!びしょびしょじゃない!なんでちゃんと頭拭かずに出てくるのよ?」



なるほど、それか。

普段から自分は風呂上りに頭をちゃんと拭くような習慣はない。自然に乾くのを待っている。
しかし誰もがそうとは限らない。
そういえばこの少女や鈴子は毎回ドライヤーで乾かしていたような気がする。



「ん〜・・・でも俺いつもこんな感じだし。自然に乾くって。」
「確かに自然に乾くけど!それは限度越えすぎよ!そんなんじゃ風邪引くじゃない!」




階段を駆け下りながら自分に近づいてくる森は、俺の頭に軽く一度触れ、
そのままさっきまで俺が使っていたバスルームの方へ進んだ。


彼女の言い分は自他共に認める”おせっかい”の称号に相応しいモノだった。
それで先ほどの言葉への合点がいった。つまりはまた自分は彼女におせっかいをやかせていたらしい。
植木はそれが性格からくるモノだとは分かっているが、それでも自分の心配をしてくれた事が嬉しかった。
こんなにも些細な事で幸せを感じるあたり、もう末期症状かもしれないなぁ・・・、なんて考えた。




「はい、乾かしてあげるから大人しく頭出しなさい」



左手にタオル。右手にはドライヤーを持って森が「さぁさぁ!」と促す。
てか、頭だせって・・・



「立ったままじゃお互いしんどいでしょ。そこ座って」



森に告げられたのは、ソファとテーブルの間のカーペットの敷いてある部分。



「大丈夫だって。いつもこれでその内乾くぞ」
「ダメっだってば。ほら早くそこ座る!この私が乾かしてあげるんだから大人しく乾かされてたらいいのよ」



・・・俺は時々森だって人の事言えねーじゃん。と想う事がある。
今の発言、結構自己中じゃないですか・・・?

そんな事は怖いから口にしないが、やる気満々な彼女は俺には止められない。
仕方ないので大人しく彼女の言う通りに指定された場所へ腰を下ろす。



「それでよし!」



そうして森は自分のちょうど後ろーーーーーーーー今自分が背もたれにしている部分のソファに腰掛けた。
自分の肩の後ろ辺りに森の膝が当たる。

頭を後ろに倒したら(格好は変だが)膝枕?のようになりそうだ。
正直焦る。まさかこんな体勢で頭を乾かす事になるなんて。どうしよう!
よく考えれば頭乾かしてもらうのだって、普通しないよな。
・・・・・・・どうしよう、頭倒したい、、、、俺って正直



「しんどかったら頭倒していいわよ」



・・・・・・・・・・・いんですか・・・・・
・・・・・・・何だか嬉しいのに嬉しくないような・・・・複雑だな。。。



「ーーーーーーーしんどくなったら・・・な」



肩にタオルをかけて、髪の毛が服につかないようにしてから、熱風が頭に当たりだした。


最初は全体を万遍なく。大まかに乾かしていく。
森の手は俺の頭を忙しなく動いて髪の乾き具合と髪どうしが重ならないようにチェックしながら少しずつ整えていく。


そして、どうやらある程度のブロックのように分けて本格的に乾かし始めた。
丁寧に、丁寧にーーーーーまるで自分の髪のように


ーーーーー『髪は女の命』、なんていうが男の自分には、そんな大それた感情を髪には持っていない
それでも、今森が触れている、触れていった髪がとてもとても愛しくて、今自分の身体でどこが好きか、
と聞かれたら自分は速攻で髪!と答えるだろう。
ーーーーやっぱり末期症状だ。自分で再確認。



「どっか熱いトコとかない?」
「ん、、、ない。気持ちいい」
「そ。ならよかった。もうちょっとだから」



そっか、あとちょとなんだ。
もっとビチャビチャででてくればよか・・・・・・いやあれ以上だと、確実に彼女の鉄拳が飛んできそうだ。
あぁダメだ・・・急激に襲ってきた心地よい睡魔が意識を奪っていく。
気持ちいい。優しく触れる指が。首元にあたる相手の膝が。今自分を包む彼女の匂いが。


そして瞼は、ゆっくりと自分の意思に反して光から闇に変わっていった。




「終ったわよ〜・・・植木?う〜えき〜?ありゃ」



森の膝に頭を預けるように眠る植木。その表情から心地よさを感じ何故だか満たされたような気分になる。
少し硬質な植木の髪をなでながら、自分も少しだけ彼と同じ事をしようと想った。


10分後2階から出てきた某関西弁手ぬぐい少年に嫌がらせのごとく少年が叩き起こされるまで、2人同じ夢を見た。
・・・かもしれない。