にはお姫様みたいに?

 









「うわぁぁ…、すご……」





『色の洪水』とでも言うべき光景が、そこにあった。

ビビットな色使いから優しいパステルカラー、キラキラ輝くラメの入ったものまで、
本当にたくさんの色で、様々なタイプのドレスが並ぶ部屋。

神様主催のパーティーの前日。

私は天界に来ていた。
明日の本番に向けての衣装あわせ。
自分一人では決められないので、相談を持ちかけた鈴子とは、こちらで待ち合わせをした。

状況から考えるに少し早く着いてしまったようで、部屋にはまだ自分一人だった。
予想外に空いてしまった時間をどうしようかと思い、せっかくなので、このだだっ広い部屋を探検してみる事にする。
するとドレスだけではなく、それに合わせる為の靴やアクセサリーまである。




「全部でいくらくらいするんだろ」




呟きは、素直すぎるもので、一人しかいない部屋にはとてもよく響いたのだった。






そろそろ部屋の中を見て周り、スタート地点に戻るぐらいの頃。


視線が一つのモノに集中した。

薄いエメラルドグリーンからコバルトブルーへのグラデーションが美しい、一着のドレス。

詳しくはないから、何と呼ぶタイプのものかは分からないけれど、腰に大きめのコサージュが着いていて
そこから生地がゆったり裾に流れているように広がっている。

心奪われたように、その場に立ちつくす。


何故だかドキドキする胸を押さえながら、周りをキョロキョロ見渡す。

別に触れたって問題なんてないだろうに、私はその姿を見られるのがとても恥ずかしい様に感じられたから。

大丈夫。ここには自分一人だ。

そっと手を伸ばし、触れてみる。





「綺麗……」





決して派手なタイプではないだろう、そのドレスは、

でも私にはこれ以上無いほど魅力的なものに見えたのだ。




「お待たせしました、あいちゃん!」
「っ!?――ふわぁ、鈴子ちゃんか!久しぶり!」
「ど、どうしたんですの?そんなに慌てて………驚かせてしまいましたか?」
「いやいやいやっ!私がぼーっとしてただけ!」




約一ヶ月ぶりの再会は、なんとも落ち着きのないものだったけれど、やっぱり笑顔だった。




「改めて――お久しぶりです、あいちゃん」
「久しぶり、鈴子ちゃん!」




手を握り合って再開を喜ぶ。

話したい事はたくさん、たっくさんあったけれど、今はひとまず置いておいて。




「早速ですが衣装選びをいたしましょうか……あら?」
「へ?どうしたの?」
「もうご自分でお決めになったみたいですわね!」
「あ…………」




知らず、握ってしまっていたドレスの裾を瞬間離す。




「では、それに合う靴やアクセサリー選びですわね〜私の分はあいちゃんが選んでくださいますか?」
「もちろん!でもせっかくだからコレだけじゃなくて、色々試着もしちゃおうか!?」
「楽しそうですわね!大賛成ですわ!」




そんなワケで始まった2人のファッションショーは何だかんだで、結構な時間になってしまった。

その日は鈴子ちゃんのご厚意により、鈴子ちゃんのお家にお邪魔する事になった。


こうやって一緒に過ごすのは、あのバトル以来だ。
何だかとても久しぶりでワクワクするのを止められない。




「大丈夫でしたか?お父様」
「うん、平気!ご迷惑にならないように、ってさ」




それから夜は、とっても楽しかった。

二人でお互いのネイルをしあったり(初めての経験だ)、明日の髪型を考えたり、学校の事を話したり
少し気恥ずかしい気分になったけれど、恋の話なんかもした。




「あいちゃんは明日、誰と一緒に踊りたいですか?」
「えぇ!?そんな急に言われてもな………」
「では、さっきのドレスを一番に見て欲しい方は?」
「それは………………」




浮かんだのは、一人の少年。
きっと彼も明日には慣れない格好で、同じ所にいるのだろう。



……………………いや、でも『アイツ』よ?私。しかっりしろ






ベットの中での秘密の話は、話題が尽きる事がない。
気がついたら私達は眠ってしまったみたいだったけれど、私は夢を見た。










私は明日着る予定のドレスを着ていた。
だれかに呼ばれたような気がして、そちらに目をやる。
優しげに、誰かが手を差し出して微笑んでくれた気がする。

まるで、御伽噺の王子様がお姫様にダンスを申し込む時のように。・・・・・・・・なんて。







本番当日。

私は選んでもらった靴を履いて、扉の前に立つ。

着飾った自分にドキドキしながら、背筋を伸ばして。






さぁ。それでは今宵、神の祝福を受けながら、宴を始めましょう。



















                                                             
→NEXT