分かってる。
永遠を誓える程、確なものなんかじゃない。
それでも、私にとっては絶対に逆らえない誓約になった。



 

 



確か最初はちょっとした世間話だったはずだ。
クラスの友達と「10年後の自分って、どうなってんだろうね」なんて、よく出る話を笑いながらしていたのだ。
そこから、早い子だと結婚して子供だっているだろう、って話になった。


「あいちんは相手がいるんだから早いだろうね〜」


にやにやしながら告げられた内容に、頭の上でハテナマークを浮かべる。
はて?相手とは誰の事だ。


「植木だよ、植木!何か今でさえ夫婦みたいだけどさ〜」
「・・・・・・・・何で植木」


まぁだいたい次に言われる言葉は予想がつくけれど。


「だって付き合ってるんでしょ?」


そう、それだ。
そもそもからして間違ってるから、先程のような的外れな話になるのだ。



「付き合ってないよ」
「うそ〜っ!」
「あんないつも一緒にいて!?」
「隠さなくてもバレバレだよ?」


同時に起こるちょっとしたブーイングに心の中で溜め息をついて、顔ではいかにも『やれやれ』と言った感じの笑顔。


「妄想ぶち壊して悪いけど本当です。あいつとはそんなんじゃないの」


私にとっては、もう何十回目となる返事はあまりにも口に馴れたものだった。



 

 




「どうしたんだよ?」


唐突に投げ掛けられた疑問にはっ、となって目の前を歩く人物にピントを合わせる。


「さっきからどうしたんだ?俺どっかおかしいか?」


言いながら自分の体を見回す植木が少し可愛く思えて、くすりと笑いながら「違うから」と答える。

そうしてから、少し目を細めて植木の頭のてっぺんから順番に形を目でなぞる。


特徴的なはね髪。
少しだけつり上がった目。
私とは違う、がっしりとした肩。

 

自分とは違う生き物なんだと知らせるたくさんの符号。

当たり前のことなのに、寂しいような悲しいような、変な気分。

自分はおかしくなってしまったのだろうか。

置いていかれているような気がしているなんて。

 

 

「今日、さ・・・・・休み時間の時に10年後には結婚して子供いそうって言われちゃった」

 

 

何を言い出すのだろう私は。

ほら、あの植木だってさすがに「何言ってんだ?」って顔をしているじゃないか。

だから、あいつから言葉出たのに驚いたのだけれど。

 

 

「相手は誰での話だ?」

 

 

mぐらいしか離れていないはずなのに、植木の顔は見えない。

なんでそんな事聞くの?

 

私達は一体今なんと言う名の関係なのだろう。

この答えを言ってしまえば、変るモノ。

変らないで、ずっと。

なんで、あんた男になんか生まれたのよ。私はなんで女なのよ。

じゃなきゃきっと仲間のままでずっと一緒にいられる違う形があったのに。

 

 

「相手は俺、か?」

 

 

答えられないでいる私に植木が告げた言葉は私の馬鹿なその場限りの嘘を崩す。

 

嘘だから。男とか女とか、だから付き合う以外の道はないだとか。

そんな事言ってたら、私は佐野やヒデヨシともそんな関係にならなきゃいけないのに。

周りの声に煩わしさを感じ続けて、誤魔化す気持ちばかりだった。

 

 

泣きそうになって俯く。これじゃ全く逆効果だ。

零れそうになる涙は、重力の法則に従って地面に落ちていこうとする。

その時不意に足元に影が出来る。

近づいてきた植木に顔を見られないように私は更に目を瞑った。何て意味の無い事だろう。

 

胸の前で祈りを込めるように握っていた指に植木が触れる。

自分とは違う、指。

でもその温かさに一瞬安心を覚え、緩んだ隙に植木は私の左手をとる。

 

 

 

そして―――――――――――――――――――――――

 

 

 

誓いを捧げる為に用意されている薬指に、唇を寄せる。

まるで姫を護る騎士が、その誓いを神の前で証明するかのように。

 

 

「何、・・・・するの。――――――――何」

「予約だ。まだそんなの買えないから。誰かに先越されないように」

 

 

何を言ってんのよ。

そんなの、そんなの・・・・・・だってこの指の意味は――――――――――――――――――

 

 

「あんた意味わかっ、て―――――――――」

「ん?プロポーズ。・・・・・の予約って感じか、まだ」

 

 

やっぱ分かりづらかったか、と笑うコイツは何を言っているのだろう。

だってこんなのオカシイ。だって私達は

 

 

「付き合ってもいないのに、なんでプロポーズなんかするのよっ!」

 

 

ぐちゃぐちゃの感情のまま発した言葉はそのまま相手に届いたはずなのに、

当の相手は、何をそんなに不思議そうな顔になるのだろう。

やっぱりコイツ馬鹿だ。

 

 

「じゃあ付き合えばいいだろ」

「―――――――――――――――――――は?」

「なんだよ、ちゃんと聞けよ。これでもちょっと恥ずかしいんだぞ。だから、今から付き合うぞって」

 

 

最初は確認だったはずなのに、2回目には何故だか確定事項になっている。

本当になんなんだろうコイツは。

私が超えられない壁を意図も簡単に超えたり、砕いたりする。

いや、私は知ってるじゃないか。

コイツは、植木 耕助という奴は、

 

 

「馬鹿ぁ・・・・」

 

 

馬鹿で、でも誰よりも優しくて強い自己中なのだから。

 

 

「な、なんで泣くんだよ?ちゃんとイベント毎とかやるぞ俺!」

 

 

あぁ馬鹿だ。馬鹿だ馬鹿だと思ってたけど、ここまでとは。

結局、私はいつでもこの少年に良いように変えられてここまできたのかもしれない。

モチロン、気付かなかっただけでそこに私の意志もちゃんとあったわけで。

でもそんなの悔しすぎるから、だからまだ泣き止んではやらない。

私が今まであんたに泣かされた分の10分の1ぐらいには困ってよ。

 

 

 

 

 

 

その後、泣き止ませようとしたのかどうか分からないけれど、

イキナリ(一瞬の触れるだけだったとはいえ)キスをしてきた植木をぶん殴って私の涙は止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2007/04/22

ここで終わり!?って感じの終わりですが、ここで終わり。

植木君は天然でしてる時と、そうでない時があるといいなぁとか思ってた気がするのですが、コレは天然色強めです。

一番最初に浮かんだ「左手の薬指にキスをする」ってのが書けて嬉しかったという話。

しかし、この植木君相手だと森ちゃんは本当に大変そうだ・・・・・