『 A/O 』



  青、蒼、藍、あおーーーーーーただそこに広がる無限の・・・・・・・ 
そこは、空と海とその両方に愛された少女の空間だったんだ。


          「海に行きたい」

予定なんかは立てていなくて、夏休み、唐突に2人で海に行った。

じりじりと焼きつく日差しの中、何でか自転車に乗って。
後ろには今回の原因の彼女を乗せて。


スタンドに足を掛け立ち乗りする彼女は風を切るような感覚にひどく大はしゃぎだった。
肩に乗せられた彼女の手が、下り坂になったりする度に自分のシャツを少し強めに掴むのが、
目の端で確認できた。出来るだけ怖がらせないように、と安全の為にブレーキを利かせながらゆっくりと下る。
風に乗って潮の匂いがしてきた。
ーーーーーーーーーーーーー海が見えてきた。



泳げないからか、見つけにくい場所だからか、自分たち2人以外誰もいない。
昔、家族で来た時に本当に偶然に見つけた、秘密の砂浜だった。


白い砂浜、青い海、青い空。
白いワンピースに、青いサンダル、青い髪の少女。
なんか絵になるな、なんて考えながら、はしゃぐ彼女を見守る。
サンダルを脱ぎ捨てて、波打ち際で水と戯れる少女はとても楽しそうだった。



「うーーーえーーきーーー!」



楽しそうにこちらに手を振る少女に不器用ながらも笑顔を向ける。

彼女の後ろの空と海が繋がってみえる。白いワンピースがとてもよく映えていて。
この少女は空と海の化身なんじゃないかと、バカな事を考えた。
化身じゃないかもしれないけど、今この瞬間、彼女は空と海に愛されているんだと、妙に確信めいたモノを感じる。



急に不安になる。この少女は自分の手の届かない所に行ってしまうのではないか。
いつか読んだお伽話のように少女の記憶が少しずつ失っていって、いつか大切な事全て忘れて・・・・

立ち上がり海の中に立つ少女に駆け寄る。自分の中に湧き上がる不安を消したくて。
ズボンが濡れるのも気にしないで海の中に入った。水が跳ね上がる。


驚く彼女が目を見開いたのも気にせずに抱きしめた。
ただ、きつく自分の腕の中に閉じ込めて。
なんと情けないんだろう。勝手に不安になって、取り乱して。抱きしめて。





「              」





  呟いた言葉は、この空と海と彼女に届いただろうか。