抉れた地面に立っていたのは、見た事もない格好だったけれども、見た目は自分と同じくらいの少年だった。

しかし、その登場の仕方からして、その少年が自分と違う種族であるのだと、嫌というほどに実感できた。
本来なら感じていたであろう、未知の物に対する恐怖や不安のような危機的感覚は全くない。
ただただ、その瞳に魅入っていて、他を感じる余裕などなかったから。
お互いに黙ったまま、見つめ合うような状況がずっと続くのではないかとさえ思った。
しかし、少年が踏み出した一歩によって、その緊張は解かれた。
動いた事によって、足元の瓦礫が音を立て、その音で呆然としていた少女の意識もはっきりとする。


「………あっ、……」


上手く声が出ないのは、改めてこの事態があり得ない事だったからだ。
それに対する処理能力が格段に落ちている。あまりにも遅い困惑や恐怖に自分自身で情けさを感じながら、
少しずつ短くなる相手との距離に比例して鼓動が高鳴る。


あぁ、だって、だってこの場所に人外の者が入ってこれるわけないのに――――!!


間隔はもう僅かしかない。逃げなければ、いけないのに……
それでも動けなくて、二人の距離が0になる瞬間、最後の足掻きで固く目を瞑る。


――――ドサっ!


暫くして耳に届いたのは何かが倒れた音。
そろそろと瞼を開くと、倒れている先程の少年が目に入った。


「………は?」


状況の整理は出来ていないが、ゆっくりと少年に近付く。
どうやら気絶してしまったらしい。よく見ると身体中ボロボロで、血も流れている。


どうしよう。こいつの招待は以前不明のままで、怪しいも爆発だ。
けれど、


「どうしよう、って悩む所じゃないわね」


そうだ。例え相手が訳のわからない侵入者でも、怪我をしているのならば助けるのが当たり前だろうから。


「っしょ、と………んーーっ!」


自分よりも若干背の高い少年を背中に担ぐ。
持ち上げられないから、足はずるずると地面を擦ってしまうが、我慢してもらう他ない。
意識のない人間を運ぶのは想像以上に大変だけれども、ほっておくわけにはいかないのだから。
額にじっとりと汗をにじませながら、少女は自らの部屋に戻るべく、動きだした。






遥か上空。

満月の光から隠れるように、夜の闇に溶け込んで浮かんでいる影が一つ。

白い少女は、引きずるようにしながら少年をどこかに運んでいく。

眼下の光景を忌々しげに見つめながら、その感情を隠す事無く舌打ちをする。

今夜はここまでだと悟ったように、その影は一度大きく羽ばたいてから、姿を消した。