お姫様の願いを叶えるのはいつだって魔女で

その役目で願いを、叶えられた姫は最後には王子様と結ばれてハッピーエンド。

………………お姫様、魔女に感謝してますか?

 

 

 

 

 




「お姫様の定義と王子様の条件」

 

 

 

 




「おまたせっ!ごめん、待ったよね?」

突然の空からの謝罪に視線をそちらに向けると、

不釣合いな程大きな三角帽に白を基調にした法着姿の少女が箒に浮遊していた。

別に驚く事はなんてない。彼女はその外見から想像できるだろうが、正しく魔女だから。


「いや、大丈夫。仕事か?」

地面に降りたった魔女であり幼馴染みの少女・森あいに尋ねた。

そんな俺は由緒正しき(?)パンプキン・ジャックの植木耕助。よろしく。


「うん、今回はねー、とあるお姫様の願いを叶えて王子様とラブラブにしてきたわ!」

ラブラブて……なんて思ったのは内緒にして。



魔女(見習い)の仕事は様々だ。

人にアドバイスしたり、未来を占ったり、薬創ったり。

悪い奴は人を呪ったり操ったりしたりするらしいけど。

まぁ良い奴悪い奴に関係なく魔女の仕事で一番多い(らしい)のが――――人の願いを叶える事。


はっきり言って俺はあんまりその事を良く思っていない。

人に願いを叶えてもらうより、自分で叶えた方がうれしい気がするから。


「あのお姫様、これから王子ともっと幸せになっていってほしいなぁ

じゃなきゃ私だって損した感じするわよね」


だって手伝ったんだから、と。

それでも話題にしている王子と姫のなりゆきの最後を見届けたんであろう、その笑顔は満足気だった。


「おつかれさん」
そう声をかけてそろそろ行くか、と切り出す。この話はこれで終り。うん。

「ん、そだ。そーいや今日は何処に行く予定なの?」

「言ってなかったか?」

「聞いてない」


そっか言ってた気でいた。
「あそこ」

簡潔に言いながら親指を立てて示たのは天に淡くきらめく月。

幼い頃は森の箒乗りの練習につきあわされた時に目的地としてよく行った場所で。

「いいわね!ミリーにも会いたいし。んじゃ後ろに…」

右手の箒を見せ跨れと促しそうになる彼女に

「や、今日はそれは無しで」

と、丁重にお断りをいれる。


なんでよー!のブーイングは聞き流す。

小さい時は構わないが、女の子に二人乗りしてもらうのは、

なんかなんとなーく様にならないような………………嬉しいんだけど、な?


「何よー!子供の時に箒の二人乗りの練習に付き合わせたの、そんなに根に持ってるの?」

「…………………」

それはノーコメントで。…………………今思えば、生きてるのが不思議だ、俺。



およそ半年に一回、月光華が咲いた満月の夜にしか出来ない天へと続く階段。

まるで空を歩いているような感覚になるそれが、俺は好きだった。

二人で移動しながら階段の一段目に到着する。


「ほら、行こう」

始めに自分が登りいつもより高さが出来た目線を彼女にあわせ、右手を差し伸べる。

少女は躊躇いながらも自分の左手を俺の手に重ね、握る。


「んじゃ、行きますか」

「うん!」


中ほどまで来た時、森はまたさっきの話をふってきた。

「やっぱりお姫様って可愛くていいわね〜幸せにしてあげたくなるのよ」

「…………自分でどうにかできないのか?」

「世の中にね、どーーーーーっしても必要なお助け役ってのがいるのよ」

 

それの一つが魔女なのよ、と付け加える。



それは、つまり自分はお助け役の脇役。お姫様たる主役にはなれないと言う事ではないのか。

仕事とは言え、なんだか癪に障る。いいじゃないか、魔女が王子と幸せになったって。

………………………………いや、こいつに王子が来られちゃ困るけど。


「…………ま、たまにはちょっとだけ、羨ましく思う事もあるけどさ」

少し照れたような、はにかんだ様なその顔は不意打ちすぎて。

ずるいぞ、それは。反則すぎだ。


「王子に来てほしいのか?」

聞いてみる。一段差、下にいる森の顔を見る事はできない。

自分はお話の様な王子にはなれないから。

好奇心と創造の人物に嫉妬。アホだな俺。


「いらない」

「は?」

「だから、い・ら・な・い」


自分の考えに集中していて唐突に、簡潔に発しられた言葉を聞き逃しそうになった。

「王子なんて生活力なさそうな人、願い下げよ!」

「そんなもん、か?」

「そんなもんよ。とゆーか私お姫様ってガラじゃないし。似合わないわよ」

きっと、と念入りに否定する。


「…………姉ちゃんが言ってた。女の子はお姫様になれるんだって」

「翔子さん?でもさ、やっぱりお姫様には王子様がいないと」

様にならなくない?俺の背中に語りかける森の顔は、見れない。


「俺がお前の王子になってやる」

なんて、それこそガラじゃない。言ってやりたいのに。

羨ましがる事なんてない。お姫様になんか負けてない。森は森だって。

いつだってその笑顔は元気をくれるから。

だから俺は………………


あ、そっか。これなら…………俺にもなれるかもしれない。

「待ってろ」

「ん?何?何を待つの?」

「がんばるよ、俺」

「だーかーら!何がよ!ここで止まっとけばいいの?それとも

全然別の事を待ってろて事?あんたは会話が唐突すぎてわかんない時があるのよ」



何気に酷い事言われた気がするが気にしない。

これは自分が勝手に決めた誓約だから、本人は知らなくていいんだ。

とゆーか俺が恥ずかしい。

決めたからにはがんばらないと。

今ある自分の手の中の温かさを、ずっと感じていたい。

"ずっと笑っていてほしい"という、自分勝手な想いの為に。


「まぁいいわ。あんたの分けわかんない性格、今に始まった事じゃないし」

本当に酷い事言われてる気がする。

まぁいいか。決意表明は(俺的に)出来たし。

俺は王子様の条件なんて、なんにも知らないけど。

でも、


幾千億の星と輝く月がある、この夜空を君と二人、手をとりあって。

お姫様の願いを叶える魔女だって、王子がいればお姫様にだってなれるだろう。

俺が王子になる、…………とは言えないけど、衛る騎士にぐらいにはなれるかもしれない。

俺にはそんな感じがちょうどいいだろう。



とりあえずは、この月へと続く階段をお姫様の手を引きながら

精一杯、エスコートしよう。







あとがき

い、意味がわからなく………!なんかFate/hollowの影響受けまくりだよ!

15巻の表紙の二人なら大丈夫だよ!とか思ったりしたり、しちゃったり(おい)

植木は王子様じゃなくて傷つきながら、必死に祖国とか護る騎士のイメージが………

それで、お姫様に無意識に恋心とか抱いてくれてたら嬉しい(私が)